吉澤誠一郎『愛国主義の創成 ナショナリズムから近代中国を見る』

a なかなかおもしろい本だね。筆者の吉澤誠一郎は、俊英といってもいいのだろうけど、決して大向こう受けをねらうことなく、堅実に実証をつみあげて、近代中国のナショナリズムの誕生を幾つかの側面から考察している。 b おどろくべきビジョンを一気に描き出…

『世界共和国へ』

柄谷行人『世界共和国へ ──資本=ネーション=国家を超えて』 おもしろい本だと思うのだが、特に刺激された部分だけメモ。 帝国と封建制 柄谷は古代帝国、都市国家、封建制といった類型を発展段階としてではなく、帝国=文明からの位置関係としてみる。「ウ…

「たけくらべ」その他

樋口一葉「たけくらべ」「十三夜」、国木田独歩「竹の木戸」「富岡先生」、前田愛「こどもたちの時間」「街の声」などをぱらぱらと。一見似たような印象で受けとられがちな一葉の文体が、じつはそれぞれかなり異なった感触を持っていることがわかった。よく…

上野英信『追われゆく坑夫たち』

1960年出版の岩波新書。著者の上野英信については、現在雑誌『未来』で連載中の道場親信の「倉庫の精神史ーー未来社在庫僅少本で読む〈戦後〉」に詳しい。上野は京都大学支那文学科を中退後、炭坑に入って労働者として働く傍ら、炭坑労働者たちのルポルター…

『監獄の誕生』

なにを今さら、といわれるのかもしれないが、フーコーの『監獄の誕生』を読み始めた。ドゥルーズの『フーコー』に促されてだった。『監獄の誕生』には、マルキ・ド・サドもかくやと思わんばかりの残酷な極刑描写(車裂き、腕の切断、死体の寸断etc.)がとこ…

「未来」、タケリン、阿部知二

先日、日本から荷物が届いた。そのなかに、未来社の広報誌『未来』三月号が入っていた。確かeditorN氏もいつかの日記で書いていたはずだが、この雑誌は今とても充実していると思う。大宮勘一郎という人の連載「大学の余白/余白の大学」は難解でいつも読み通…

樋口一葉『にごりえ』(昨日のつづき)

例えば、すが秀実は、言文一致という言語的な革命において目指されていたのは、作品の内容が読者の前にありありと現れるという意味での「現前性」であったのだと述べる。*1すがは、韻文ではそれが非意味的な情動(=ポエジー)として、散文では物語内容とし…

樋口一葉『にごりえ』

来週の授業のために、樋口一葉『にごりえ』を読む。一葉を手にとったのは十数年ぶりだろうと思う。二十歳前後のころ(たぶん)に読んで、「うーん、わかんない」と思ったきりだったのではないか。場所柄、日本文学のスタッフが充分おらず(というか、ネイテ…