座談会「日本と中国の狭間から」より

言論の自由に対する批判のことですが、私がいつも思うのは、与えられた自由な言論空間でいうと、日本は中国より広いです。ただ、日本の自由な空間は、どうも壁のようなものに囲まれていて、押しても押してもなかなか広げられない。一方、中国での空間は狭いのですが、それは一種のネット袋みたいなもので、押したら十分な空間に空間になりうるんです。(孫軍悦さん)

メディアの存在は、今の中国においては特別な意味を持っている時代だと思いますね。例えば三農(農村・農業・農民)の問題を最初に具体的に取り上げたのは、近年一番有力な全国紙のひとつになっている広東省の南方報業集団でした。南方集団は、現地に取材に行って農村の問題をリアルに伝えました。ただ、忘れてならないのは、南方集団も広東省の機関新聞で、広東省政府の機関紙だということです。そういう機関誌がとても批判的なことをしていることについては、あまり日本の人は見ていない。社会的経済的に見れば南方報業集団は、党のプロバガンダ紙からある種のメディアグループへ転換した一つの成功例です。しかし政治的に見れば、そういう転換を成功させることに大きな役割を果たしたのは、編集者や記者など知識人だけでなく、党内の改革派だったんですね。共産党そのものをも重層的にまた動的に見るべきであり、そこから「中国」そのものをダイナミズムに満ちた存在としてみるべきだということです。(林少陽さん)


季刊軍縮地球市民 特集:隣人中国 より。
孫軍悦さんとは、まだ学校にいた頃、何度かお会いしたことがある。ほとんどすれ違いのようなものだったので、この座談会を読んで、もっといろいろお話を聞いておけば良かったと思った。中国の言論空間が「ネット袋」だというのは、思わず首をぶんと振ってしまうような指摘なのだが、この感覚をうまくロジカルなコトバで表現できたら、俺もたいしたものなのだけどな、と思う。