『トンマッコルへようこそ』

パク・クァンヒョン監督の韓国映画トンマッコルへようこそ』が結構おもしろかった。パッケージにはハングルしか書かれていなくて全く内容が分からなかったのだが、ジャケ買いで選んだのが良かったと思う。2005年の韓国の大ヒット作だということは後でわかったし、久石譲が音楽をやっているとも知らなかった(何か久石みたいだなと思ってはいたのだが)。
基本的には、周星馳(『少林サッカー』)風味もはいった娯楽作だ。背景は朝鮮戦争。戦場から逃れた二人の韓国軍兵士と、三人の人民共和国軍兵士が、嶮岨な山岳地帯に迷い込み、やがて隠れ里めいた小さな村へたどりつく。そこは、戦争が起きたことさえ知らない桃源郷で(村人は近代兵器を見たことがない)、人々は平和な農村生活をおくっている。最初はお互いに殺しあいかねなかった韓国と人民共和国の兵士(と不時着していた米軍パイロット)が、やがてナショナリスティックな憎しみを捨てて、トンマッコル村へのパトリオティズムに目覚めていく過程がプロットの中心になるわけだけど、おもしろかったのはこの映画では最初から、人民共和国の兵士も「ウリ(われわれ)」の一人としてあらわれていることだった。『JSA』(2000)あたりからの朝鮮戦争関連映画を見ていると、韓国の人々が徐々に北朝鮮へとにじりよっていく過程が見えてくるようで興味深い。少なくとも表象の中では、否応なく恐怖と不安と憤激をかきたてるものだった北朝鮮が、ごく自然に「同じ朝鮮民族」というスタンスに変わって来ていると思う。これが金大中以来の宥和政策を支える情緒的基盤なのだろうし、その結果でもあるのだろう。現実のこれからの歴史は、そう簡単にもいかないだろうけど。
この映画では、共和国軍兵士は特殊な恐ろしい存在ではない。剥き出しの暴力を体現するのは、同盟軍であった米軍なのだ。映画では最後、トンマッコル制圧を目論む米軍に対して、兵士たちが決死で立ち向かうという展開になるのだけど、そのとき若い北朝鮮兵士が叫ぶ。「俺たち、連合国軍だよな。北ー南連合軍だ!」